過日、龍泉寺所有地(松ケ洞の山)に隣接する土を最近買った長池清氏と土地の境界の事で現地で確認することになりました。ここからは長瀬地区全体がながめられ、正面下方に兼務している龍泉寺がよく見えました。この小山から下を眺めながら龍泉寺創立の由来など話していたら長池氏から後北条の通信手段のについて狼煙の話があったのですが、韮山城から長浜城の輸送ル−トに関心がいっており、緊急の連絡手段の方法まで考えませんでした。後北条の通信手段として『のろし』という方法が知られているとのことで再度文献など調べるよう気にとめてました。
 平成18年3月末、のろしの事が気になって三島図書館にて【静岡県史】の中世編を調べていたらまさに武田勝頼の伊豆侵攻に対して『のろし』を扱った古文書がのっていました。下記にその原文を掲げてみる。

天正8年(1580年)8月3日  北条家朱印状 高田文書(戸田村井田---現在沼津市戸田村)

敵船相動付而者、見出次第狼煙を可揚、一ケ所之狼煙を見届、諸浦一同狼煙を可揚、のろしを見届候者、隣単之者ハ相互ニ可揚之、致見除候者可為重科候、猶以のろし次第、味方舟乗出、
敵を可討留候間、少も不可油断候、仍如件
       

 (天正八年)
       
               (印分「禄寿応隠」)

  (伊豆国田方郡)
追而、江梨相談可致之、
           (田方郡)
          井田
            さなき山
            静岡県史 資料編8 中世四(p547)参照
上記の原文の訳は次の通りになるだろう

『敵船を発見したものはすぐに狼煙をあげること。一ケ所の狼煙を見届けたなら諸浦一同狼煙をあげるべし。のろしを見た者は隣に伝えるように揚げること。見届けを怠ったものは重罪に科す。猶、のろし次第味方の船を出し、敵を討ち留まること。少しも油断なきよう。

追伸 江梨地区にも相談あること    井田 さなき山』

 ※名前はないが文書差出人は井田地区の高田氏であろう

 『のろし』が揚がった時いかに早く伊豆の北条水軍の根拠地である長浜城、そして伊豆の中心の城である韮山城に連絡がいくかが当時の最重要課題であったことが上記のことからも読み取れる。 
 伊豆の半島の狼煙に関わりそうな山とその高さを下記にのせてあるが、またそのの山々のガイドをしている『伊豆のハイキング』(真辺征一郎著)のコ−ス紹介も参考にしながら考察したい。

 この地域で360度の展望できる山は通称沼津アルプスで一番高い鷲頭山(392m)と伊豆長岡町のロ−プウェイ山頂の葛城山(452m)があげられ、両者とも駿河湾と田方平野を一望でき戦略的にも大変重要な山である。ただ長浜城からの見通しのよさでは鷲頭山が最もよい。。また、大瀬崎から井田さらに戸田地区への連絡ポイントはさなき山(真城山)が一番であろう。さらに海岸まで山がせまっている内浦湾では大瀬崎や淡島も中継地としては重要な場所ではないかと思われる。
 一般的に天候がよい場合には駿河湾を一望できる鷲頭山から長浜城と韮山城に連絡できると思われるが韮山城からは大平山にさえぎられてみにくいのではないだろうか。さらに雨天や見通しが悪いときは各浦々でのろしを揚げながら長浜城に連絡又は小船で連絡するしかないでしょう。兵農分離した織田軍に比べて伊豆水軍の兵士は普段は漁をとって生活している人々であったろうし、日頃から訓練して体制を整える準備していたのであろうことが上記の『高田文書』からも推察される。また、緊急軍需物質の輸送ル−トが想定される長瀬川ル−トの入口である龍泉寺には運搬人足として長瀬や隣村の小坂地区農民の動員も日頃から訓練も必要でここへの連絡も必要であったのではないか。ただ龍泉寺からは葛城山は見えず、正面の山(松ケ洞)にのろしを揚げる場所も考えられる。
 いずれにしても武田勝頼は2年後(1582年)には滅び、さらに10年後(1590年)には小田原北条氏も滅亡してのろしの大掛かりな連絡方法も最後になってしまったのであろう。

●大平山356m

韮山城・長浜城からみた山々の写真

鷲頭山392m

狩野川

八月三日

戸倉城

駿河湾

武田水軍

韮山城

松ケ洞

葛城山452

発端丈山410

長浜城

淡島

井田・江梨と長浜城の位置関係と地域の高い山

金冠山816

真城山492m

大瀬崎

江梨地区

井田地区

長浜城から韮山城の緊急連絡は?

 戦国末期の武田勝頼の伊豆侵入に
            備えての「のろし」の位置

@天候が良い時
江梨・井田⇒真城山⇒鷲頭山
      ⇒長浜城
 鷲頭 ⇒(※大平山)⇒韮山城
※直接鷲頭山からのろしを揚げることも?


A山などに霧がかかっている時
江梨・井田⇒大瀬崎⇒淡島⇒
長浜城--徒歩--山越え--韮山城


B軍事物資通路との連携の時
(緊急時の長瀬川山越えル−ト)
韮山城⇔葛城山⇔発端丈山⇔
長浜城